講演会のリプライ(1)高校生が博士論文の成果を知る意味

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はじめに

 2023年6月17日、講演会「占領下沖縄における学校教育の再開と復興」(お茶の水地理学会主催・お茶の水学術事業会共催)に登壇いたしました。学内の関係者・お茶の水地理学会会員の方を中心に、高校生から社会人の方まで幅広い年代の方に足をお運びいただきましたことを、この場を借りて改めてお礼申し上げます。

 一度限りの講演会だと、せっかくいただいたご感想やご質問にお答えする機会が持てません。そこで、本ブログを通じて、リプライをさせていただきたいと思い至りました。個人情報に十分配慮して、可能な範囲でお答えしたいと思います。

 今回とても驚いたのが、高校生が参加くださっていたことです。今回の講演は博士論文の成果をまとめた著書に基づくものなので、通常は高校生に話す機会はありません。こちらも想定していなかったので、嬉しい誤算でした。

 高校生が博士論文の内容を、著者から直接聞く機会は非常に珍しいです。私も意図せずこのような機会に恵まれたので、事前に知っていたら、違った観点から話をしたかもしれません。まず、この事実を重視したいと思い、第1弾として、高校生の感想に対して応答したいと思います。

高校生の参加の動機

 ご感想のなかで、本講演会に参加した動機を書いてくださっていました。「地理を学びたい」「論文を読むのが趣味で、講演会や調べ物が大好きだから」ということが書かれていました。お茶の水地理学会主催のイベントですが、今回の内容が地理に関することではなかったので、その点ではご期待に応えられなかったかもしれません。

 個人的に、「論文を読むのが趣味」というご意見が非常に印象に残りました。今後どのように学ばれるのか、楽しみです。

高校生が本講演会で得たこと

 大きく分けると、➀高校の授業では聞いたことがない話が聞けた、➁大学での学びが楽しみになり、そのために受験勉強を頑張るモチベーションになった の2つです。

 前者については、高校生ならではの感想だと思いました。高校までの学びは、これまで研究者等が研究を重ねてきたことが、学ぶ対象になっているため、新たな研究成果はまだ高校(以下)の教科書には繁栄されていないからです。研究の成果が、ゆくゆくは教科書などに反映され、学ぶ対象になっているのです。そのことを直接伝えられなかったので、この場を借りて伝えたいと思います。

 後者については、研究内容や研究の面白さ自体に関心を持っていただいたと感じました。この感想をくださった方は、既存の知識を習うことより、自分で調べたり発見したり、能動的に学ぶことに関心があるようなので、大学生になったらそういう学びができるということに、関心を持ってもらったのだと思います。私がまさにそのタイプの高校生だったので、強く共感しました。受験勉強を頑張った先には、自分が学びたい学びがあることを知り、今やっている勉強のモチベーションが上がったということだと理解しました。自分も同じ道を辿ったので、それは間違いないと思います。

沖縄戦後の学校風景(1945年)[沖縄県公文書館提供]

高校生が博士論文の研究成果を知る意味

 高校生からの貴重なご感想をいただき、高校生が博士論文の研究成果に触れる意味について考えてみました。

 第一に、学校で習わないことを知ることができることです。最新の研究成果は教科書に書かれていないので、新たに誕生した知に早く触れられるのは、学びの刺激になるのだと感じました。その証拠に自分事に惹きつけて考えていらっしゃいました。今回は、沖縄戦直後の教育状況の話だったので、戦時中では教育を受けることが十分に保障されていないことを伝えたところ、今の自分が教育を受けられていることの意味を、ご自身なりに考えていました。

 第二に、講演の内容自体が、高校生のアンテナにひっかかるチャンスがあることです。今回参加してくださった高校生は、大学で学びたい分野がはっきりしている印象を受けましたが、このような最新の研究成果の話を聞くことで、自分が学びたい学問分野やテーマが見つかる可能性があると思いました。 

 大学の教員が研究について高校生に話す際、つい高校生が理解しやすいように単純化して話がちです。ですが、今回は全くそのような「配慮」をしないでお話しました。それがかえって「新鮮」だったと思いますし、すべてが分からなくても、研究とは何か、大学の勉強の行きつく先は何かを伝えることができたと思います。ある意味、高校生向けにカスタマイズされていない、研究者の研究自体にストレートに触れる機会になるということです。

 自分も出前授業では、今回の講演会のような話はしないので、改めてこの場に来てくださったことと、そこから受け取ってくださったことに感銘を受けました。

 

 高校生が博士論文の内容に関心を持ってくださるのは、本当にありがたいし、大学教育や研究上の「希望の兆し」です。

 よって、研究者は最新の研究成果を高校生にも届けることが大事なのではないかと思いました。高校生用にカスタマイズするというよりは、率直に研究自体を伝える方が、瑞々しい感性を持った高校生たちにとってはかえっていいのかもしれません。

 今後、高校生を対象とした研究成果に関する講演会の実施が実現することを、目標にして研究に励みたいと思います。

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