論文・コラム誕生秘話#1:「自分の名前が書けない人々の戦後」


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はじめに

 研究者という職業柄、筆を執る機会が多いです。でも、その多くが論文や専門書のため、その分野の研究をしている者以外にとってアクセスしにくいものです。

 一方、研究者の大きな役割の一つが、研究で明らかになった知見を広めること。論文やコラム等はインターネット上で読めるものがほとんどですが、よほど関心があったり必要に迫られないと、手に取るのは難しいと思います。

 ところで、論文等がそもそもどんなきっかけで書かれたのかは、それ自体には書かれていないので、余計にとっつきにくいのではないでしょうか。そこで、専門書・論文・コラム等が、どのように誕生したかを紹介することで、少しその内容にも興味を持っていただけるかもしれないと思い、自分が書いた研究論文やコラムについて、「誕生秘話」を綴っていこうと思い立ちました。

書誌情報

 「誕生秘話」➀とし、「自分の名前が書けない人の戦後」を選びました。書誌情報は、以下のとおりです。

  • 萩原真美「自分の名前が書けない人の戦後」『季刊 社会運動』No.448、市民セクター政策機構、2022年。

 同書は沖縄県の本土復帰50年の年である2022年に刊行されたもので、沖縄特集として組まれました。「青い海と未来を考える沖縄」という副題のとおり、沖縄関係のコラムが軒を連ねるように掲載されています。大きく3つのパートに分かれていて、このコラムは「Part1 沖縄近現代コラム集」の「コラム3 子ども」として書いたものです。

経緯

 まず、コラムのオファーの経緯についてお話ししたいと思います。そもそもの始まりは、前田勇樹・古波藏契・秋山道宏編『つながる沖縄近現代史』(ボーダーインク社、2021年)。私も執筆者の一人として、「第5章 沖縄の人々にとって「日本人」になるってどういうこと?」「コラム⑨沖縄戦における御真影奉護と志喜屋孝信」を執筆しています。

 同書が刊行されてから約半年後に、編者の一人である秋山道宏さんから一通のメールをいただきました。同書を手に取ってくださったとある編集者さんが、秋山さんに沖縄の歴史コラムの編集を依頼されたそうです。その一つのテーマ「女性から見た沖縄戦後」。『つながる沖縄近現代史』の著者の中から候補者を探したそうで、私に声をかけてくださいました。

 その雑誌の読者層を考えて、「女性」「暮らし」をキーワードにした内容のものを書いてほしいということでした。


依頼からコラム完成まで

 その当時、学術雑誌ではない、一般の方が読まれる雑誌にコラムを書いたことがなかったのですが、これは広く伝えることができるよいちゃん氏と思って喜んでお受けしました。オファーの10日後くらいにオンラインで打ち合わせを行い、他の執筆者や編集者さんと意見交換をして、おおよその方向性を決めました。

 私が、沖縄の占領初期の教育について研究をしてきて、研究者以外の方々にもぜひお伝えしたいと思ったのが、「沖縄戦前後を子どもの時期に生き抜いた人々の生きづらさ」でした。しかも、その生きづらさを抱えた人々は男性より女性の割合が高いのです。その事実をお伝えしたところ、ぜひコラムにしていただきたいということになりました。

 実は、このテーマについては、博士論文ではほとんど書くことができなかったので、自分にとってもどこかで書きたい・伝えたいと思っていたことでした。

背中に赤ん坊を背負う少女(1945年5月10日:沖縄県公文書館提供)

 

打ち合わせから締め切りまで約1ヶ月と言われました。当時本務が激務だったので、自分に関しては少し期限を延ばしていただき、1ヶ月半で執筆しました。

この「仕事」を通じて学んだこと

 一つは、媒体に合わせた「結論」の示し方をする必要があることです。
 コラム完成までに、一度編集者の方にチェックしていただきました。興味深かったのは、私が「教育論」で締めくくっていたところ、「歴史観」でお願いしますというものでした。

 研究論文だと、その研究者が資料等を検討して主張したいことを書きますが、雑誌等では、その媒体(および読者)が何を求めているのかに焦点を当てて書くということです。研究論文しか書いていなければ、このような視点は持ちにくいので、大変勉強になりました。

 もう一つは、この研究を通じて、世の中にどんなメッセージを伝えられるかを深く考えられたことです。沖縄戦の前後に教育を受けることができず自分の名前すら書けないことは、文字の読み書きという技能面の不自由さだけではないということ。一番重く受け止めたのは、人として生きる上での極度の自信のなさを生んでしまうことです。

 詳しくは、ぜひコラムをお読みいただけると幸いです。一部はhttp://cpri.jp/social_movement/202210/からお読みいただけます。

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