2022.11.27

学術書の意外な楽しみ方3選


 自分の専門以外だと、大学の課題(レポート)や論文を書くといった明確な目的がない限り、なかなか手に取る機会がないのが「学術書」。ただでさえぶ厚く内容も難しそうで、かつ高い(人文社会科学系だと数千円~1万円超)ので、敬遠しがちではないでしょうか。

 学術書は、その多くが博士論文をはじめとした長年にわたる研究成果をまとめたものです。内容が理解できないと読んではいけないような雰囲が漂っていますが、内容が理解できなくても、意外な観点から楽しむことができます。今回は、そのうちお勧めの楽しみ方3選をお伝えしたいと思います。

その1:読みたいところだけ読む

 本は、何となく最初から全部読まなければならないと思っている方が多いのではないでしょうか。学術書に関しては、必ずしもその必要はないと思っています。

 学術書は大きく、➀デザイン、➁目次、③はじめに(または序章)、④本論、⑤あとがき ⑥索引 に分解できます。

 おおよその内容を知りたければ、➁の目次を見てみると全体像が分かります。一種の地図のようなものです。目次を見て、ちょっと気になる部分をまず読んでみる・見てみるのがいいかと思います。


 要約のようなものが読みたいのであれば、③のはじめにがいいと思います。ただし、本によっては「はじめに」がないので、その場合は序章になります。ただ、この本がなぜ書かれたのかを説明しているので、決して易しく書いてあるわけではありません。


 また、学術書は専門用語が非常に多いので、⑥の索引は大変便利です。辞書代わりに使えます。事項索引と人物索引に分かれているものが多いと思います。その研究分野の基礎的な用語や重要な人物が把握できるので、自分が理解している事項・人物なのかどうかをチェックすることも可能です。

その2:デザインのこだわりを見つける

 学術書と言えども、表紙ひとつとってもデザイナーさんがデザインしてくださっています。拙著の場合、出版社からデザイナーに表紙等のデザインを依頼して、3案ほどつくってもらいました。そのデザインを見て著者の意見と編集者の意見を勘案し、出版社のほうで決定しました。

 最終的に選ばれたのがこちらです。

 拙著を例にデザインがどう決まるのかをお伝えしたいと思います。

 表紙に使われた地図は、文教部編修課「沖縄地図」(文教部編修課、1947年9月)の一部で、B4くらいのわら半紙に印刷された地図を、全部で18枚張り合わせて作られたものです。

 当時の学校では、その大きさからして掛地図にして使われたと考えられます。地の部分は、経年劣化による変色。カラーに見える部分は色鉛筆で着色されています。

 中央近くにある『沖縄歴史』という白黒の冊子のようなものは、占領初期沖縄で刊行された沖縄の歴史副読本の表紙です。これは、占領初期沖縄の歴史教育の内容が窺える、数少ない貴重な史料の一つです。拙書は、これらの史料を手がかりに書いたので、まさに内容とぴったりの表紙です。

 本のデザインは表紙だけではありません。表紙を1枚めくり、中表紙を見てみると、沖縄独自に発行された教科書(ガリ版刷り教科書)の一部が印刷されています。

(実は、このデザインは表紙の候補の一つでした)

 ガリ版刷り教科書や表紙の地図の現物は、わら半紙のようなザラザラした紙に印刷されています。元々紙質はよくないですが、経年劣化もあって、触ると指に引っかかるような触り心地がします。

 デザイナーさんは、この中表紙を、ガリ版刷り教科書を想起させるザラザラとした手触りの紙にしてくださったのです。紙の本であることから、触ったことまで考えてデザインしてくださっていることに、著者として本当に感動しました。

 なお、デザインの微調整微修正には、著者の意見も反映してもらえます。私がこだわったのは、です。当初「占領下沖縄」の「沖縄」は真っ青でしたが、私がイメージする沖縄の海の色がブルーグリーンだったので、ブルーグリーンに変更していただきました。それに合わせて、中表紙の色もブルーグリーンになりました。

 このように、もしかしたらデザイナーさんだけでなく、著者のこだわりもあるかもしれないので、想像してみると面白いかもしれません。

その3:まず「あとがき」から読むという手

 そもそも学術書を読み慣れていない場合、すべて難しく読みにくく感じるかもしれません。そこで、お勧めしたいのが「あとがき」から読むという方法です。

 あとがきは、著者がなぜこの研究に取り組んだのかというストーリーや、研究をする過程でどんな人との出会いがあったかなどが書かれています。一種の小説のようなタッチで描かれていることが多いです。ご家族に対する感謝の気持ちを綴っているものも多いです。それだけ人生かけて書いているからだと思います。

 あとがきは、その研究者の人となりがよく分かるという意味で、大変興味深いです。研究の裏話的なこともたくさん書かれているので、書いた人に興味を持ってから難しい内容に入っていくと、読みやすいかもしれません。

 私も学術書を読むときは、本論ではなくあとがきから読む派です。以前Twitterで学術書はどこから読むかをつぶやいたところ、私のようにあとがきから読む派の研究者は多かったです。

 ちなみに、あとがきは長い人と短い人に分かれると思います。わたしは前者です。本文自体が長いので、あとがきも長く9ページあります。短いと3ページくらい(約3000字。ブログ1記事程度)の方が多いでしょうか。いずれにしても本文と比べればはるかに短いので、ここから読むとかなりハードルが下がると思います。

 学術書は、買わずとも公共の図書館や大学図書館などで借りられるので、興味のある分野のものから手に取っていただくといいと思います。「あとがき」は本当にお勧めです。

 

 

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